脳波研究の歴史
脳波研究の歴史は、19世紀後半のリチャード・カトンによる動物の脳からの電気活動の記録にさかのぼります。1875年、英国の医師カトンはウサギとサルの大脳皮質表面から微弱な電気変動を検出し、これが脳波研究の最初の科学的報告となりました。しかし、ヒトの脳波を初めて記録したのは、ドイツの精神科医ハンス・ベルガーです。
ベルガーは1924年から一連の実験を開始し、1929年に論文「Über das Elektrenkephalogramm des Menschen(ヒトの脳電図について)」を発表しました。彼は「脳電図」(Elektrenkephalogramm)という用語を初めて提唱し、後にこれが英語の「Electroencephalogram(EEG)」として国際的に定着しました。ベルガーはアルファ波とベータ波を同定し、閉眼時にアルファ波が増大し開眼時に抑制される現象(ベルガー効果)を記述しました。
当初、ベルガーの報告は懐疑的に受け止められましたが、1934年にケンブリッジ大学のエイドリアンとマシューズが独立して彼の発見を確認したことで、脳波研究は急速に発展しました。1935年にはギブスらがてんかんにおける特徴的な脳波パターン(棘波、棘徐波複合)を報告し、EEGの臨床応用が始まりました。第二次世界大戦後には脳波検査室が世界各国の病院に設置され、1947年には国際脳波学会(現在のIFCN)が設立されました。
1950年代から1960年代にかけて、睡眠脳波の研究が飛躍的に進展しました。1953年にアセリンスキーとクレイトマンがREM(急速眼球運動)睡眠を発見し、1968年にはレヒトシャッフェンとケイルズが睡眠段階の国際標準判定基準を発表しました。1960年代後半からは事象関連電位(ERP)の研究が本格化し、P300、N400、ERNといった認知プロセスに関連する脳波成分が次々と同定されました。21世紀に入ると、高密度EEG、ソース推定技術、機械学習との融合、ウェアラブルデバイスの開発により、EEG研究は新たな黄金時代を迎えています。